後継者の指名と育成がうまくいく先代社長の特徴

アメリカでは就任から3年以内に解任される社長の割合が約15%とされています。これは中継ぎ的に就任した暫定社長を含まない数字です。

日本では社長が解任されることはそれほど多くありませんが、創業者やカリスマと言われた社長の後継者が舵取りを上手くできていないケースが見受けられます。一度は退いた創業者が社長に復帰する事例もあります。

これは大企業に限ったことではなく、中小企業においても起こっていることです。

社長は取締役会によって選ばれることになっていても、それはあくまで制度上の話で実質的には先代が指名しているという会社が多いです。

つまり、新社長がうまく経営出来ていないというのは先代社長の育成と選択が間違えていたという見方もできます。

なぜ先代社長は後継者の育て方と選び方を間違えるのでしょうか?

ペンシルバニア州立大学のアパルナ・ジョシ博士たちがそれを説明するのに最適なフレームワークを提案しています。

発達心理学の理論を用いた斬新なものなのです。それを簡単に紹介したいと思います。

ジェネラティヴィティ(Generativity)とは

アパルナ・ジョシ博士たちがフレームワークに用いたのは「ジェネラティヴィティ(Generativity)」というものです。

これは有名な発達心理学者のエリク・エリクソンが生み出した言葉で「次世代を育成し導くことへの関心(または能力)」を意味します。

発達心理学において、人間は年齢が上がるごとに様々な課題をクリアしながら成長していくものとされています。

子供時代は歩けるようになることや話せるようになることが課題です。青年期は他者と関係を築けるようになること、さらに年齢が上がると老化を受け入れられるようになることなどが人生の課題とされています。

そしてそれらの課題をクリアしてある程度の年齢になると、自分よりも下の世代を育てたいという考えが芽生えるとされています。その感覚がジェネラティヴィティです。

博士たちが提唱したのは先代の社長(この研究ではCEO=最高経営責任者)の持つジェネラティヴィティが後継者の育成と選択に影響するというフレームワークです。

「育成したい気持ち」と「口出ししたい気持ち」という2つの軸

このフレームワークはジェネラティヴィティの他に後継者の決定および業務遂行に口出ししたいという欲求も考慮しています。

なぜなら後継者を育てたいと考える人間の中には、その後のことにも関与したいというタイプもいるからです。

つまり「育成したい気持ち」と「口出ししたい気持ち」を軸としたフレームワークなのです。

この2つの軸で先代CEOを分類すると以下の4パターンになります。

  • 超ジェネラティヴなCEO:育成も口出しもしたい
  • ジェネラティヴなCEO:育成したいが口出しはしたくない
  • 反ジェネラティヴなCEO:育成はしたくないが口出しはしたい
  • 低ジェネラティヴなCEO:育成も口出しもしたくない

どのタイプかにより後継者の育成方法と指名が異なるのです。

どんなタイプを後継者にするか?

それぞれのCEOのタイプごとにどんな育成をして、どのような後継者を選ぶかについて見ていきましょう。

超ジェネラティヴなCEO

後継者の育成と決定に強い関心を持つ超ジェネラティヴなCEOは在任中から後継者候補となる特定の幹部に目をかけます。

なぜなら退任後も影響力を残すためにコントロールしやすい人間を後継者にしようと考えるからです。このタイプよって指名されるのは前任者のやり方を踏襲する後継者です。

会社が安定しているときは問題ありませんが環境が変化したときは柔軟性のなさが障害となります。

ジェネラティヴなCEO

「ジェネラティヴィティとは次世代育成能力だけではなく、その後の自立を尊重できる器の大きさまでを含めたものである」という心理学者もいます。

このバランスが最も取れているのが育成に関心を持ちつつも、その後のことに口出しはしたくないというジェネラティヴなCEOです。

在任中の早い段階から、公平な視点で選んだ複数の後継者候補に機会とアドバイスを与えながら育成します。

後継者の指名については数名の候補者を取締役会に提案し決定させるという方法を取ります。最も有能で環境変化にも適応できる後継者を選択する可能性が高いのがこのジェネラティヴなCEOです。

反ジェネラティヴなCEO

反ジェネラティヴなCEOは育成はしませんが後継者選びのプロセスには口出しをします。

なぜなら自分が権力の座から降りたくないと考えているからです。このタイプは後継者の育成や指名よりも自分が居座ることに関心を持っているのため次世代の妨害をする可能性さえあります。

それでも後継者を選ばなければならないときはやってきます。その時に選ばれるのは社内事情に詳しいけれどCEOとしての資質に欠ける社内人材です。もしくはCEOとしての資質はあるけれど社内事情に疎い外部人材となります。

低ジェネラティヴなCEO

低ジェネラティヴなCEOは育成にも後継者の指名プロセスにも関心がありません。そんなことよりも目の前の事業にリソースを注ぎ込みたいと考えているからです。

もしくは正しい育成や後継者の指名など不可能と考えています。このタイプは次世代の邪魔をすることもありませんが必要な助言や機会を与えることもありません。

低ジェネラティヴなCEOも引き継ぎの準備をしていないため、反ジェネラティヴなCEOと同じタイプを後継者にしてしまう可能性が高いです。

取締役会のコミットが必要

育成はしたいけれど口出しはしたくない、というジェネラティヴなCEOが最適な育成を行い最も優秀な後継者を選ぶ可能性が高いということを理解してもらえたと思います。

ではそれ以外の3タイプに正しい育成と後継者指名をさせるにはどうすれば良いでしょう?

これに関してアパルナ・ジョシ博士たちは取締役会のコミットを挙げています。

フォーチュン500社の取締役会のうち後継者について定期的に議題として取り上げているのは35%未満というデータがあります。

それだけ後継者の指名は現社長やCEOの専権事項という意識を持っている取締役が多いということでもあります。

そしてジェネラティヴなCEO以外のCEOもそれが当然のことと思っているため、取締役会の意見には耳を貸さない可能性が高いです。

しかし取締役会が定期的に後継者の育成や指名について説くことで改善できる可能性があるとアパルナ・ジョシ博士たちは提案しています。

中小企業の後継者育成こそ要注意

中小企業の社長は創業者であるケースが多いです。そのため自分が社長を引退した後も影響力を残したいと考えがちです。

起業家にとって会社は自分の子供のようなものですから、これは当然の感情ともいえます。

しかし、会社の成長を考えるのであれば「育てるが口出しはしない」という意識を持つことが大切なのです。

また、いくら実子が大切だからといって、能力が見合っていないのに後継者にするのはやめたほうが良いでしょう。

他の幹部のモチベーションが落ちるだけではなく倒産につながります。

自分の子供だからと贔屓目に見てしまっていないか冷静に考えましょう。

参考文献:APARNA JOSHI, DONALD C. HAMBRICK, JIYEON KANG. 2021. THE GENERATIVITY MINDSETS OF CHIEF EXECUTIVE OFFICERS: A NEW PERSPECTIVE ON SUCCESSION OUTCOMES.

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