経営理論が実践で役に立たないのはなぜか?

経営学の教科書には様々な理論が掲載されています。

それらの経営理論を自社に応用しようとしている勉強熱心な経営者もいるでしょう。

しかしそれが実践で役に立たないケースも多いです。なぜでしょうか?

経営理論の成立過程を見れば使えない理由が分かる

そもそも経営理論を考える経営学者は「儲かる方法」を体系立てているわけではありませんので、営利追求企業の戦略にそのまま使えるわけないというのが答えなのですが…。

それだと話が終わってしまうのでもう少し詳しく説明しようと思います。

経営理論が会社経営に使えない理由はその成立過程を考えれば簡単に分かります。

「統計的に有意である」は100%該当するということではない

経営理論として成立するためにはまず現実に起こっていることの分析から始まるのですが、ここでさっそく誤差が生じます。

例えば取締役会のメンバー構成と業績の関係を調べたら、取締役に女性と外国籍の人間がいる企業は100社中70社で純利益が10%を超えていたとします。

そして同じ国籍の男性のみで取締役会が構成された企業は100社中40社しか純利益が10%を超えていなかったとします。

これだけの差があれば統計的に有意な差があるといえます。そして「取締役会の多様性と企業の業績には相関がある」という論文も書けます。

しかし、取締役会に多様性のある企業でも30社は利益が少ないのです。あなたの会社がこちら側だったらこのデータを基に組み立てられる理論は使えません。

理論として体系化されると解釈の余地が生まれる

統計的に有意なデータが取得できたらそれを体系立てて理論化します。

つまり特定の会社のみに適用できる形ではなく、多くの会社で適用できる形にするのです。これは見方を変えれば抽象度を上げるということです。

先程の例でいえば「10人中5人を男性にして、残りの3人を女性にして、残りの2人を外国籍にする」というのは理論とはいえません。

これらの具体的なデータを「同じ国籍の男性は50%以下にする」とするのが理論です。この程度の抽象度であればまだ平気ですが「多様性を持たせる」のようなものになったらどうでしょう?

多様性の捉え方は人によって異なります。性格なのか年齢なのかキャリアなのか分かりません。

解釈の余地が出てきてしまうのです。

そして経営者が自分なりの解釈をして自社に当てはめるので大元の事象とはかなりズレてしまい、期待した成果が得られなくなるのです。

企業ごとの条件の違い

その他の条件も考慮するとさらにズレます。

企業によって参入している業界、規模、ライバル社の動向、従業員のレベルは全く異なります。

これらの条件のうちの何か一つでも異なると結果も大きく変わってしまう可能性があります。

経営理論は本当に役立たないのか?

しかし経営理論が全く役に立たないのかといえばそんなことはありません。

クライアントの社長が「直感でやってきたことだったけど、後で経営学の本を読んだら理論的にも間違ってなかった」と言うこともあります。

社長の直感は当たるものですが、無意識にあらゆる条件を計算して最適な解を導き出しているのでこのようなことが起こるのだと思います。

成功パターンの再現性は低いですが、失敗パターンの再現性は高いです。なので自社の戦略のリスクを確かめるために経営理論を参考にするのは悪いことではありません。

また、計画策定の際に検討し忘れていることがないかを確かめるためのフレームワークとして役立てることもできます。

机上の空論と切り捨てるのではなく、他人の視点として経営理論を使ってみてはどうでしょうか?

経営理論の元となっているデータはどこかの経営者が下した判断なのです。

経営理論は天才経営者の直感には勝てない

ここまで説明してきた通り、経営理論が使えないのは以下の理由です。

  • 元となるデータがサンプルの100%に該当しているわけではない
  • 理論として体系化され抽象化されたことで解釈の余地ができてしまう
  • 企業ごとに置かれている環境、条件が異なる

私もこのブログなどで「〇〇大学の研究ではこうだ」と言ってしまうのですが、それはあくまでも統計的に有意な差があるというだけであって、そのまま経営戦略に落とし込めという意味ではありません。

それと、これは多くの優秀な経営者と仕事をしてきた私の感覚ですが、経営理論は天才経営者の直感には勝てないと思います。

なのでセンスでこれまでやってきたという経営者は理論に惑わされないように気をつけてほしいと思います。感覚が鈍るのが一番怖いのです。

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