研究から分かった判断力が低下する危険な習慣があります。
結論を先にいうと「ネット検索」です。
仕事をするときもネットで調べ物をしながらでは判断力の低下につながってしまうのです。
頭とネットの情報の境界が曖昧になる
ネットで調べたことは記憶に定着しにくいということは前々から言われていましたが、それだけではなく判断力にも悪影響を及ぼすということが最近の研究で分かってきました。
その理由は何でもすぐに検索して答えが見つかると「ネット上にある情報」と「自分の頭の中にある情報」の境界が曖昧になるからです。
すると自分が持っている知識以上のことを知っているような感覚になってしまうので、自分の無知さを自覚しにくくなり、過信して判断を誤るのです。
これがネット検索によって判断力が低下する原因です。
ネット検索を使うと過信する
テキサス大学ビジネススクールの実験があります。
この実験ではまず参加者にテストを受けてもらいます。
このときネット検索を使って回答するグループと、自分の頭の中にある知識だけで回答するグループに分けられます。
テストが終了した後に「2回目のテストがあります」と言います。
この2回目のテストについては全員がネット検索を使わずに自分の頭の中にある知識だけで答えてもらいます。
2回目のテストを受けてもらう前に「あなたは何問くらい正解できると思いますか?」と質問しました。
すると1回目のテストでネット検索を使っていた人たちのほうが、自分はたくさん正解できるという予測をすることが分かりました。
なぜこのようなことが起こるかというと、「ネットで調べた情報」と「最初から自分の頭の中にある情報」の区別が曖昧になってしまったからです。
つまり本当はネットの力で解答したのに自分の能力だけで解答したと錯覚してしまったのです。
「分からないので答えを探している」と無知を自覚する時間が重要
この実験では自分が解答した問題を見直しさせ、それをネット検索で解答したか自分の頭で解答したかを思い出してもらうということも行いました。
するとネットで調べて解答したのに自分の頭で解答したと判断してしまうことが多くありました。
なぜ判断を間違えるのかというとネット検索ですぐに答えが出てしまったからです。
例えば紙の辞書で調べ物をするときは答えに辿りつくまでに「自分は分からないことがあってその答えを探している」という無知を自覚しつづける時間ができます。
この無知を自覚する時間というのが自分の持っている情報と外部の情報の区別をするのに重要とされています。
しかしネット検索ではすぐに答えが出るため、この時間が飛ばされてしまいます。つまり自分の頭の中から情報を引っ張り出したときに近いプロセスになってしまうのです。
そのためネット上の知識が元から頭の中にあったと錯覚しやすいのです。
自分で調べようとしない人間に「ググれカス!」と罵倒することがありますが、実は「ググるからカス」になってしまうのです。
考える時間を持つと情報が区別される
このことを証明するような実験も行っています。
結果が出るまでに25秒かかる検索システムを使ってテストを受けさせたのです。
このパターンでは錯覚が起こらないことが分かりました。
つまり「今自分は知らないことがあるので調べ物をしている」と考える時間が長めに持てたことで外部の情報と自分の頭の中の情報の区別がきちんとなされたということです。
ググる前に考える習慣を身につける
これらの実験からネットで調べ物をするときは少し時間を置くと良いといえます。
しかしその時間が無駄な気がするかもしれません。
そういうときは自分なりの答えを予想する時間を持てば良いのです。
検索する前に自分なりの答えを予想することで調べた内容が記憶に定着しやすくなるという研究もあります。
何かを検索するときはまず自分の頭で考えるという習慣を持つと、判断力の低下を防げるうえに知識も吸収しやすくなるのです。
ネット検索をし過ぎると経済的な選択や病気の治療法の選択といった人生に重大な影響を及ぼすことに対する判断力も落ちる可能性もあるので気をつけましょう。
参考文献:Adrian F. Ward. (2021).People mistake the internet’s knowledge for their own.