断られるかもしれないお願いをしなければならないときがあります。
会社であれば部下に残業をお願いしたり、面倒な客先に行ってもらうときなどが該当します。
そんなときに使えるちょっとした心理学のテクニックがあります。
それは、急いでいる雰囲気を出してお願いするというものです。
そうすると聞き入れてもらえる確率が高くなるのです。
すぐに答えなければならないとき良い人に思われようとする
カリフォルニア大学が社会的な望ましさに関する10個の質問に答えてもらうという実験を行いました。
質問には以下のような内容が含まれています。
- ミスをしたときには、いつでもそれを認めるようにしています
- 他人を傷つけるようなことを言ったことはありません
これらの質問に「はい」か「いいえ」で答えてもらいます。
このとき参加者は2つのグループに分けられました。
11秒以内に答えなければならないグループと、11秒より長く考えてから答えるグループです。
この2つのグループの回答を比較すると面白いことが分かりました。
11秒以内に答えるよう指示されたグループのほうが、社会的に望ましいとされる答えを選択する傾向が高かったのです。
つまり人格者っぽくみえるような回答をしたということです。
「自分は良い人だろう」(Good-true-self bias)
なぜ実験のようなことが起こったのでしょうか?
人間は「自分は良い人だろう」というバイアスを持っています。これを心理学で「Good-true-self bias」といいます。
このバイアスの強さは人によって違います。
バイアスが強い人は、社会的に望ましい人間かどうかを問う質問に対し、すぐに答えてもゆっくり考えてから答えても、良い人に思われるような回答をします。
反対にバイアスが弱い人間、つまり「自分はそんな良い人じゃないだろうな」と思っているタイプの場合は違いが出るのです。
ゆっくり考えてから答えると良い人に思われるような回答はしません。
しかし、バイアスが弱い人間でもすぐに答えを出せと言われると、良い人に思われるような回答をしてしまうのです。
つまり、すぐに答えなければならない状況では自分のことを良い人と思っていようと、悪い人と思っていようと、良い人に思われるような回答をしてしまうということです。
悪い人間でも「良い人と思われたい」という欲求はあるので、即座に判断する必要があるときはそれが優先されるのです。
急いでる雰囲気を出してお願いする
このような人間の習性をうまく利用すれば、どうお願いするのが効果的か分かります。
急いでる雰囲気を出して、すぐに答えなければと相手に思わせた状態で「手伝ってくれると助かるんだけど、どうかな?」と聞けば良いのです。
そうすると良い人に見られようという気持ちが働きやすくなりOKしてもらいやすいということです。
逆に「ゆっくり考えて、あした答えをちょうだい」というお願いの仕方では「 good-true-self bias」が弱い人間の場合、言うこと聞いてくれなくなる可能性があるということです。
参考文献:John Protzko,Claire M. Zedelius, et al. (2019). Rushing to Appear Virtuous: Time Pressure Increases Socially Desirable Responding.