成果報酬型(インセンティブ)の導入で効果が上がる仕事と下がる仕事

社員が会社にもたらした利益や成果に対して一定割合を支払う成果報酬型(インセンテンィブ)の給料は一見すると双方にメリットがあるように見えます。

社員はやればやるだけ給料が上がりますし、会社も儲けが出ない限りは余計な金を払わずに済みます。

しかし、このような成果報酬型の給与体系は仕事内容によって効果が変わってきます。

結論からいうと、頭を使わない単純な仕事では効果が上がりますが、独創性を求められる仕事では効果が下がります。

ですから、成果報酬の導入を考えている経営者は自社の仕事は独創性が必要なものなのか、きちんと判断する必要があります。

独創性が必要な仕事とは?

独創性が必要な仕事とはどんなものか分かりやすい例があります。次の問題を考えてみてください。

以下の絵にあるものを使ってロウソクを壁に固定し、火をつけなさい。ただし、溶けたロウが床に落ちないようにすること。
ロウソク問題

これは心理学者のカール・ドゥンカーが考案した「ロウソク問題」という独創性をテストする課題です。

有名な問題なので知っている人もいるかもしれません。

問題の答えは次のように画鋲の入っていた箱を壁に固定し、そこにロウソクを立てるというものです。

ロウソク問題の解答

画鋲の入っている箱を使うというアイデアを思いつくことが独創性です。

ホワイトカラーの仕事の多くは独創性を求められるものと思って良いです。むしろ独創性が不要なら全てテクノロジーに置き換えるべきです。

報酬を意識すると独創性は低下する

独創性の必要な仕事にインセンティブを与えると効率が落ちることが分かっています。

心理学者のサム・グラックスバーグ博士らが参加者を集めて面白い実験を行いました。

さきほどのロウソク問題をやらせたのですが、参加者を2つのグループに分け、それぞれに別のことを言いました。

グループA:この問題を解く平均時間を知りたいのでこの実験をしています。
グループB:この問題を早く解いて上位25%に入ったら5ドルあげます。1位なら20ドルあげます。

その結果、どうなったでしょうか?

グループAのほうが早く正解にたどり着いたのです。インセンティブを与えると言われたグループBは平均で3分以上も遅く解きました。

報酬を意識したことで独創性が低下してしまったのです。なぜなら目の前のことしか考えなくなり、他の有用な情報に目がいかなくなったからです。

つまりインセンティブは既成概念でしか物事を考えなくさせてしまうということです。

(※人間は利己的な金のことを考えるとコンプラ意識も低下することが分かっています)

インセンティブを与えることが良い効果を発揮する仕事

ホワイトカラーの仕事も独創性が求められる内容が多いです。そのため成果報酬型の給与体系を導入すると会社全体のパフォーマンスが落ちる可能性が高いです。

しかし、中にはひたすら単調な作業を繰り返す仕事もあります。こういった仕事においては成果報酬型のほうが効果が上がりやすいです。

実はさきほどのサム・グラックスバーグ博士はもう一つ別の実験を行っています。

内容はほとんど同じですが、アイテムの見せ方を変えたのです。次のような形で見せました。

ロウソク問題(その2)

これなら独創性などなくとも、最初から箱を使えば良いと分かります。

結果はさきほどと逆で、インセンティブを与えられたグループのほうが早く解きました。解いたというより作業を終わらせたといったほうが正しいかもしれません。

非常に狭い視野を持って行う単純な仕事や、ひたすら同じことを繰り返す仕事においてはインセンティブが効果を発揮するのです。

自社の仕事は独創性が必要かどうかよく考えてから成果報酬型の導入を行わなければなりません。

社員の「成果報酬型にしてくれ」は本音ではない

社員に給与体系についての要望を聞くと「成果報酬型にしてくれ」という人間が意外と多いことに気づくと思います。

しかし、それを真に受けてはいけません。

クライアント企業で「仕事をしていない人間と自分の給料が同じなのは納得いかない」と不満を持っている社員に出会うことがあります。

全体ミーティングなどでも「成果報酬にしろ」と鼻息荒く主張する人間も多いです。半数近くがそれに同意していたりもします。

しかし、そこで給与体系について匿名のアンケートを取ると、成果報酬型に賛成しているのは1割、よくて2割です。

心の中では安定した固定給を求めていても、表向きは成果報酬に賛成する人間は少なくないのです。

そのほうが有能に見えたり、自信あり気に見えるからです。それに「固定給が良い」と言ったらやる気がないと思われるリスクもあります。

しかし、本気で成果報酬型が良いと思っているような人間は最初から固定給と分かっている会社には入社しないのです。

仮に入社しても途中で「自分は絶対に稼げる」と確信を持てばフルコミッションの会社に転職するか、自分で会社をやっているはずです。

くれぐれも社員の強がりをそのまま受け取ってはいけません。

参考文献:Glucksberg, S. (1962). The influence of strength of drive on functional fixedness and perceptual recognition.

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