企業を変革するには「変わらないこと」を伝えなければならない

事業環境の移り変わりが早い現代では、企業は常に変革し続けなければなりません。さもなければ淘汰されてしまいます。

とはいえ、組織を変えるのは難しいものです。特に赤字企業や成長の鈍化した企業ほど変わりたがりません。

たとえ経営者の指示であっても、不安や反発が生じ素直に受け入れられない社員も多いです。

こうなる理由として、変革のメリットばかりを強調してしまうことが挙げられます。

実は組織を変革しようと思ったら、そのメリットを伝えるだけでは不十分です。

それに加え「変わらないこと」を伝えなければなりません。

そうすることで社員の不安が軽減され、変化を受け入れやすくなるのです。

人間は変化を恐れる動物

企業を変革するためのプランを策定し、それを実行しようとしても社員は受け入れてくれないことがあります。

人間は変化を恐れる動物なので仕方のないことです。特に長年同じやり方を続けてきた企業においては、慣れ親しんだやり方を捨てることには抵抗があります。

たとえ赤字続きでも、目前に倒産の危機が迫っているケースでもない限りは変わる必要性も感じないでしょう。

経営者が将来を見据え、変革の必要性を認識しても社員は同じ感覚にはなれないのです。この温度差は非常に大きいものです。

そのため、変革するには「会社は本当に変わるのだ」というメッセージを強く主張し、具体的な計画として伝えなければなりません。

しかし、そのようなメッセージを受け取った社員は動揺します。

反抗的になったり、表面的には受け入れたような態度を取りながら行動は起こさなかったり、プレッシャーを感じてパフォーマンスが落ちてしまったりするのです。

こういったマイナスな影響を出さずに企業を変革するには、根本的な価値観は変わらないというメッセージも伝えることが大切です。

「変わらないこと」を伝えると社員は変革を支持しやすくなる

アムステルダム大学のマーリン・ヴィーナス博士らが、事業拡大や組織再編、戦略変更などを実施した会社を対象に、企業変革とその影響について調べた研究があります。

企業が変革するときにリーダーがどのように伝え、どうサポートしたか、それによって社員の気持ちはどうなったかということを分析したのです。

その結果から、リーダーが「変わらないこと」について伝えた場合には、社員は変革を支持しやすいことが分かりました。

逆に「変わらないこと」を伝えないと、疑念や反発を招きやすいことも分かっています。

この調査とは別に博士らは学生にカリキュラムが変更することを伝える実験も行っています。

このとき、「授業方法は変わるが学校のアイデンティティは変わらない」ということを伝えることで、それを受け入れやすくなることも分かっています。

変革のために伝えるべき変わらないこと

企業を変革するときに伝えるべき「変わらないこと」は何かといえば、企業理念やビジョンです。

今、ちょうど手元に『経営12カ条』(稲盛和夫)があるので参考にさせてもらいますが、例えば京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」です。

仮にあなたの会社も同じような経営理念を持っていたとしたら、「仕事のやり方や組織設計は変わるが、従業員の幸福を追求するという理念はこれからも変わらない」と伝えることが大切なのです。

根本的な価値観の連続性は保たれるということを伝えれば、不安が払拭され、変革を受け入れやすくなるのです。

そのためにも日頃から企業理念を全社員に浸透させておくことが大切なのです。

社員が企業理念を知らないという会社が少なくないのですが、そういう会社は全体のモチベーションも低く、業績もイマイチなことが多いです。

参考文献:Merlijn Venus, Daan Stam, Daan van Knippenberg. (2019). Visions of Change as Visions of Continuity.

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